eコラム「北斗七星」

  • 2015.07.09
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年7月9日(木)付



その写真を見た瞬間、息が詰まった。はだけたシャツと硬直した右腕の指から人だと分かるが、焼けただれた顔は口とおぼしき辺りに前歯が見て取れるだけ◆『原子爆弾1938~1950年』(ジム・バゴット著、青柳伸子訳、作品社)第Ⅲ部「戦争と原爆投下」の扉写真だ。米軍の原爆による「熱線で顔を焼かれた広島の女学生」とあった◆1938年ドイツで核分裂が発見され、ナチスの原爆開発を恐れたアインシュタインらは米大統領に警告の書簡を書く。この手紙から人類の核兵器の歴史が始まり、45年8月広島・長崎へ原爆が投下された◆同著は言う。核分裂の発見によって物理学者たちは国民国家が招集することのできる最も重要な軍事資源となった。そして政治的・軍事的意思決定プロセスの悪影響を受けるようになった◆第2次世界大戦が終わっても原爆の開発競争は続き、人類滅亡を恐れる科学者らは55年7月9日、核兵器に断固反対し、紛争解決のために平和的手段を見いだすよう諸政府に勧告した(ラッセル・アインシュタイン宣言)◆それから60年。だが、今なお<相手を力でねじ伏せようとしても、恨みや報復の連鎖は断ち切れず、平和はけっして訪れない>(訳者・青柳さん、前掲著あとがき)との声はやまない。平和創造へ日々努力したい。(六)

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