eコラム「北斗七星」

  • 2015.05.08
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年5月8日(金)付



「手紙が無理なら電話でもいい 金頼むの一言でもいい」。さだまさしさんの名曲『案山子』は、兄が都会で暮らす弟を気遣う。学生時代、この曲を口ずさみながら、無心の電話を実家にしたものだ◆親心が身に染みた。だが、それを逆手に取った特殊詐欺がはびこる世相は悲しい。昨年の被害は過去最悪の559億円に上った。最近では、地方の高齢者を東京に呼び寄せる新手の「上京型詐欺」が増えているという◆なぜ高齢者が狙われるのか。ルポライター・鈴木大介氏は『老人喰い』(ちくま新書)で、犯罪に走る若者たちを描く。地味なスーツに革靴、黒い短髪で、サラリーマンの出勤時刻に出社する「プレーヤー」たち。彼らは個人情報を駆使し、劇団員のように各自の役回りを演じる◆連れて行かれるのは、高級車が並ぶゴルフ場。「この光景目ん玉に焼き付けとけよ」。鬱屈した若者が、金のある高齢者を「敵」と思い込むよう洗脳される瞬間である。著者は「圧倒的経済弱者である若者たちが、圧倒的経済強者である高齢者に向ける反逆の刃」と指摘する◆社会が結束して封じ込める以外にない。大型連休に帰省できなかった人は、声だけでも聞かせよう。だが、犯罪を思いとどまらせることができないほど若者の閉塞感が強いのであれば、問題の根はもっと深くにある。(也)

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