e出版不況 活字文化の復権へ総力結集を

  • 2015.02.06
  • 情勢/解説

公明新聞:2015年2月6日(金)付




「私がもう少し若くてまだ力があったなら、私は書物を編集・出版すること以外は何もしないでしょう。精神生活を持続させるためのこの仕事を(中略)一時的な景気商売のように行ってはならないのです」―。


文豪ヘルマン・ヘッセがこうまで書いて、憧憬と賛辞を惜しまなかった編集・出版の生業が、かつてない危機に瀕している。出版科学研究所の調査で分かった。


調査結果によると、昨年1年間の書籍と雑誌を合わせた出版物の推定販売金額は、前年比4.5%減の1兆6065億円。10年連続の前年割れで、落ち込み幅は過去最大だった。ピークだった96年の2兆6564億円に比べると約4割減で、市場規模は実に1兆円も縮小したことになる。


「消費増税の影響が大きかった」とする同研究所の分析は、今回の落ち込みだけに限って言えばその通りなのだろう。だが、全国の書店数がこの15年間で4割も消えていることに照らしても、事態はそう単純でないことは明らかだ。かねて指摘されてきた出版不況が、いよいよ危険水域に入ったと見るべきだろう。


大状況として背景にあるのが、いわゆる本離れであることは言うまでもあるまい。文化庁の国語世論調査によれば、1カ月に本を1冊も読まない人は今や2人に1人。"学びの時"にあるはずの高校生に至っては7割にも上る。「尋常ならざる事態」(国立国語研究所)と言うほかない。


若者を中心に活字離れを呼び込んでいるのが、「文字によらない新しい情報メディアへの依存と、使い捨て情報の氾濫」(劇作家の山崎正和氏)だ。スマートフォンなどの電子メディアから垂れ流される断片的、即物的、即効的な「情報」の洪水の中で、体系的、総合的、持続的な「知識」を獲得する営みとしての読書は敬遠される一方にある。


真に憂うべきは、こうした風潮が出版不況をもたらしていること以上に、「キレる」「ムカつく」といった言葉に象徴される現代社会の病理と無縁でないことだ。主権者たる市民の自立を前提とする民主主義の深化と成熟のためにも、官民の総力を挙げて活字文化の復権に取り組みたい。

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