e地方創生の視点 農林水産業に好機あり

  • 2015.01.05
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年1月5日(月)付

 

 

「逆6次化」で再構築の活路を

中央大学経済学部教授
山崎 朗氏

日本の国土に適した為替相場があるのではないか。大学教員になってからずっとこのことが頭から離れない。70円台の円高は、地方産業の国際競争力を喪失させた。逆に、120円近い円安は、輸入品に50%近い関税を課けたに等しい。地方産業再生にとってビッグチャンスである。

近年の日本の貿易赤字の原因は、原発運転停止による原油、天然ガス、石炭輸入の増大にある。だが、見逃してはならないのは、農作物、食品、医療機器、医薬品、航空機分野における大幅な貿易赤字である。実はこれらの産業分野は、先進国が強みを有する産業群であり、日本の産業構造を高度化するためにチャレンジしなければならない分野でもある。

と言えば、すぐに「米国、オーストラリアの大規模な農業と日本の農業を比較するのはいかがなものか」という反論に遭う。しかし、欧州の小国、オランダやデンマークにおいても農業やバイオテクノロジー分野の国際競争力は高い。

地方再生の第一のカギは、農業、林業、水産業の「リストラクチャリング(再構築)」にある。国際競争力が高く、イノベイティブ(革新的)な第1次産業への移行を抜きにして、地方再生はありえない。

6次産業化、地産地消という新しい潮流が芽生えている。農作物を栽培(1次産業)するだけでなく、それを加工(2次産業)し、販売(3次産業)することで付加価値を高められる。

だが、1次産業から6次産業化へのアプローチは、規模が小さく、地域を支える基幹産業にはなりえない。地方再生には、3次産業や2次産業から1次産業へのアプローチが重要である。すなわち、「逆6次産業化」である。

長崎ちゃんぽんを展開しているリンガーハットは、ちゃんぽんに使用する野菜をすべて国産野菜に代えた。麺の小麦も国産である。年間使用するオランダサヤエンドウは500トンだが、国内の生産量は50トンしかなく、産地を探し、生産委託の承諾までかなりの時間と労力を要したという。

北海道浜中町の酪農家は、ハーゲンダッツアイスクリームの原料となる牛乳を供給している。中華料理チェーン・餃子の王将のギョーザも香辛料を除き、国内産の野菜や国内産の小麦を使用するようになった。福岡県で開発された小麦の新品種「ラー麦」も、博多のラーメン店が使用することで活路が見いだせそうだ。国産鶏肉を取り扱うケンタッキーフライドチキンが外国産の鶏肉を使用していたら、どれだけの養鶏業者が国内から消滅していたであろうか。医療用漢方薬の大手・ツムラは、北海道夕張市で薬草栽培を始めている。

米国の経営学者であるマイケル・ポーターの「産業クラスター論」のモデルとされたのは、カリフォルニアワインである。ワインクラスターとは、ブドウ農家、醸造所、醸造機械メーカー、大学の研究所、瓶やラベル、広告会社など、関連する団体や企業が国際競争力や付加価値を高めるために、競争と連携するシステムを構築することである。

輸入牛肉の高騰で価格を大幅に引き上げることになった、牛丼チェーン3社が、共同して北海道や九州の牧畜業と連携し、安全・安心・新鮮かつおいしい国産牛肉を生産し、日本の牛丼業界に革命が起きる、というのはやはり初夢にすぎないのであろうか。

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