eコラム「北斗七星」

  • 2014.10.22
  • 情勢/社会

公明新聞:2014年10月22日(水)付



万葉集にある挽歌だが、詠み人は分からない。<秋津野に朝ゐる雲の失せゆけば昨日も今日も亡き人念ほゆ>。朝の間、懸かっていた雲がなくなると、きのうも、きょうも亡くなった人が思い出されてならない―。大切な人を失った悲しみを時が癒やすことはない◆宮城県南三陸町の防災対策庁舎にとどまって町民に避難の放送を続け、津波に流された町職員の三浦毅さん。その妻・ひろみさんは、赤茶けた鉄骨の前で、きょうも行方不明の夫に話し掛けるのだろう。「おとうさん、またあした来るね」と◆東日本大震災で「逝った命」、あるいは「生き残った命」。その重みを受け止め、記憶と記録に刻むため、本紙東日本大震災取材班は、昨年9月から大型連載「3.11 命みつめて」を1年間にわたり続けてきた。この"命の記録"を再取材、新しく2本の書き下ろしを加えた14編のドラマで構成した単行本『命みつめて』(鳳書院)が、今月20日に発刊された◆表紙の題字『命みつめて』は、同書で紹介されている三浦ひろみさんの筆によるもの。「夫に手紙を書く気持ち」で、50回もの書き直しを重ね、寄せてくれた◆夫の意志と生きた証を残したい。涙をぬぐい、「あの日」を語る姿が、まぶたに焼き付いて離れない。「忘れない」「風化に抗う」ことをあらためて誓う。(川)

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