e震災3年6ヵ月――今再び、命みつめて

  • 2014.09.08
  • エンターテイメント/情報
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公明新聞:2014年9月7日(日)付



映画『救いたい』完成を記念して
映画監督 神山 征二郎氏
公明党代表 山口 那津男氏



東日本大震災の被災地を舞台に、麻酔科医の妻と地域医療に努める内科医の夫ら、厳しい現実の中を懸命に生きる人々の姿を描いた映画『救いたい』が今秋、全国で公開されます。発災から3年6カ月、撮影時のエピソードや作品の見どころなども交え、被災地の現状や復興への課題について、神山征二郎監督と公明党の山口那津男代表に語り合ってもらいました。
嬉しかった被災者の出演。その思い胸に撮影 神山
オール・ジャパンで「人間の復興」を進める 山口

山口那津男代表 一般公開に先立ち、ひと足早く映画を拝見しました。過疎化に医師不足、そして心に負った深い傷......。被災地の中で生き、何としても「命を救いたい」という人間としての使命感、思いやりが溢れている作品だと感じました。主演であり、被災地出身でもある鈴木京香さんの演技にも、復興を願う強い意志が宿っているようで、胸が熱くなりました。

神山征二郎氏 そう言っていただけるとうれしいです。実を言うと、震災からしばらくの間、私は恐怖感で足がすくみ、東北へ足を運ぶことができませんでした。しかし、本作の企画の話を受け、覚悟を決めたのです。「生半可な気持ちで取り組むことは絶対に許されない。恥ずかしくない仕事をしよう」と。これが本作に懸けた監督としての偽らざる思いです。それに、原作者で現役の麻酔科医である川村隆枝先生の「麻酔科医の仕事をもっと広く知ってほしい」という思いに心を打たれたことも大きな動機です。

山口 そうでしたか。私も誤解していましたが、手術中に患者の体温や血圧など全てを管理しているのが麻酔科医であり、いわば"縁の下の力持ち"であることが、本作を通してよく分かりました。

神山 実は、私もそのことを知りませんでした(笑い)。川村先生から教えていただいたのですが、麻酔科の専門医は、被災地に限らず全国的に不足しており、医療現場では大問題だそうです。

山口 今、受けるべき医療が十分に受けられていない現状がある。川村先生の思いも含め、大切な課題に光を当て、映像として訴えられていることはとても大事な仕事だと思います。広く国民に知ってもらうことで、「自分も麻酔科医をやってみたい」という志ある若い人が増えることを期待しています。

神山 ありがとうございます。川村先生もそのことを切に願っていました。

山口 撮影では、仮設住宅で暮らす被災者の皆さんもエキストラとして参加されたそうですね。

神山 そうです。ロケに入ったのがちょうど震災から2年半の時でした。皆さん、撮影を楽しみにしてくださって、積極的に参加していただきました。本当にありがたかった。診療所のシーンで、主演の一人、三浦友和さんのお手伝いさん役として出演したのも被災者の一人です。

山口 あのシーンですか!

神山 あの女性が今回の撮影で一番お世話になった方の一人です。津波で家を奪われてしまったため、現在は仮設住宅で暮らしています。

山口 そうだったのですね。撮影の時に印象的だったことは何ですか。

神山 私たちがロケ隊として被災地に入ったときに最も気を配ったことは、被災者の皆さんの"思い"です。「どういう心根で撮影しているのか」と、皆さん、口には出しませんが、そのような思いで私たちを見ていたと思います。当然ですよね。

私たちは、そうした被災者の皆さんの"心情"に最大限の配慮をしたつもりです。もとより、心と心で向き合わないと撮影は絶対にうまくいきません。強引に撮影しても、後で禍根を残してしまいます。それだけは絶対に避けたかった。スタッフ全員、その思いで撮影を進めました。

山口 被災者は、筆舌に尽くしがたい辛い思いをされています。風化と風評という二つの風も吹きすさぶ。一方、"あの時"のことを忘れたい思いの人も少なくない。

神山 この映画を見たある医師が、「折れた骨は元に戻せても、心の傷はそう簡単にはいかない」と仰っていました。風化には抗わなくてはならない。しかし、被災者の心の痛みを癒やすには、時間というものが必要なのかもしれません。

山口 被災地では、今なお、悲しみを乗り越えられずに苦しみ続ける被災者が多くいます。藤村志保さんと中越典子さんが向き合うシーンは、そうした被災者の心情が見事に描かれており、目頭に熱いものがこみ上げてきました。

神山 そのシーンは、一番力を入れた場面の一つです。本作の一番の見どころでもあり、役者に実力がなくては決して撮れないカットだと思います。

山口 ネタバレしてしまいますから、詳細は割愛しますね(笑い)。それに、主演の鈴木京香さんと三浦さんによるラストシーンも、印象的でした。

神山 本作の主題をあえて申し上げれば、「命をみつめて」です。その思いを表したのがラストシーンです。実は、最終場面のあのセリフは、脚本家に無断で少しだけ書き直しました(笑い)。もう試写会も行っているので、脚本家も気付いていると思いますが(笑い)。

山口 そうでしたか! あの言葉の響きは、今でも胸を打ち続けています。この震災では、肉親を亡くし、自らの命はかろうじて助かった人たちが大勢いる。その中には、「生き残ったことが辛い」と、今も苦しみ続けている人が多くいます。彼ら彼女らが「前を向いて生きよう」と、確信をつかめるようにしなければ、「人間の復興」にはならない。

神山 全く同感です。公明新聞に掲載された山口代表のコラムを読みましたが、「人間の復興」という信念、そして「命を守る」という思いは、心から共感できますね。

山口 ありがとうございます。震災から3年半を迎える今、復興が進んだ面もあれば、まだまだやりきれていない点もあります。5年を一つの目標に掲げ、これからも「オール・ジャパン」での取り組みを進めなければならないと決意しています。

神山 命をみつめれば、人は優しくなれるはず。これからも「命を守る政治」を進めていただきたいと切に願っています。

山口 ご期待に必ずお応えしていきます。「人間の復興」を必ずや、成し遂げていきます。


こうやま・せいじろう
1941年、岐阜県生まれ。新藤兼人監督らに師事し、71年に監督デビュー。『ふるさと』『ハチ公物語』など作品多数。

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