e発明の所有 努力を奨励する制度か

  • 2014.05.22
  • 情勢/解説

公明新聞:2014年5月22日(木)付



社員の満足感高める創意工夫を


企業で働く社員による発明(職務発明)の特許権は誰のものか。

特許権とは、いわば発明による利益の独占を許される特別な権利だ。経済のグローバル化も手伝って画期的な職務発明が、膨大な利益を企業にもたらすことも少なくない。職務発明の特許権が、企業と発明した社員のどちらにあるか。この論争に、世論は双方の利害対立をどう解消すべきかに注目しがちだ。

特許法は1921年に職務発明の特許権が社員にあることを示しているが、対立が裁判に発展した例が後を絶たない。スマートフォン(多機能携帯電話)開発の突破口にもなった青色発光ダイオード(LED)の特許権をめぐる争いもその一つだ。ノーベル賞級と称賛された発明の特許権は裁判を経て企業側に認められたが、企業は発明者に「発明の対価」としての和解金を約8億円支払った。

特許庁の「特許制度小委員会」が、特許権の帰属問題の抜本的解決に向けて関連法改正を視野に議論を開始した。政府の知的財産戦略本部も「知的財産推進計画2014」の原案をまとめ、職務発明制度の見直しを盛り込んだ。

産業界には職務発明の利用時に、発明した社員との訴訟が増加傾向にあり、企業の経営やイメージへの悪影響が無視できないという懸念があるようだ。企業が特許権を得やすくなれば、技術流出を組織的に防ぐこともできるとの考えもある。企業からすれば職務発明が成し遂げられたのは、企業が研究設備や資金を用意したから可能になったということになる。

半面、社員には特許権の企業所有を最初から認めれば、発明への貢献が評価されにくくなり雇用待遇が不利になるとの危機感がある。社員が持つ自らの創意工夫や技術、発想がなければ発明は不可能だという考えも理解できる。

問題の解決には、利害の調整と同時に職務発明が生まれやすい社会環境をどう整備するかの視点を忘れてはならない。国全体から見れば、新たな職務発明は市場開拓を通じて日本の経済活性化の鍵を握るからだ。

特許庁の調査では、企業の社員は研究開発上の重要な点に「金銭的処遇」よりも「現実的問題を解決したい願望」や「仕事に従事する満足感」を挙げる社員の方がやや多い。新発明への企業と社員の双方の努力を削がないためには利益配分を対等の立場で決定できることも必要だが、仕事に対する社員の満足感を高める工夫も欠かせない。

月別アーカイブ

iこのページの先頭へ