e犯罪被害者支援へ条例改正

  • 2014.05.19
  • 情勢/社会
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公明新聞:2014年5月17日(土)付



損害賠償金 立替え支給
心理相談料や転居費も助成
現地報告 兵庫・明石市



兵庫県明石市は犯罪被害者等支援条例を改正し、今年度から施行した。改正条例は、公明市議の後押しもあり被害者・遺族の経済的、精神的支援を拡充したもので、"悲劇の代償"である損害賠償金を、市が立て替え支給する、全国初の制度が盛り込まれた。犯罪に巻き込まれ悩む被害者らの実情とともに、その取り組みを報告する。【関西支局・大矢秀和】

「支援を手厚くする条例に改めました。経済的に困窮するケースもあったので」。兵庫県明石市内の住宅を訪ねた公明党の絹川和之市議がこう報告すると、住人のAさん(43)は深くうなずき、「本当にその通りです」とつぶやいた。

Aさんは犯罪被害者の一人だ。事件は2012年5月に発生。家宅侵入の加害者と鉢合わせた直後、頭を複数回殴打された。

一命は取り留めたものの、診断は頭がい骨陥没骨折。その後1年近く、仕事に復帰できなかったAさんには、国、市から計98万円の見舞金と、返済義務のある50万円の貸付金が支給された。だが生活は、月を追うごとに苦しくなるばかりだった。

Aさんにはもう一つ、割り切れない思いがあった。重傷を負ったのに、寄り添ってもらえていないとの疑念だった。

実際、犯罪被害者給付金に関する法律では、親族間による事件や、被害者が加害者に挑発行為をした場合などは支給額の減額といった措置が取られるのだ。Aさんの場合、加害者とは面識がなく一方的に殴打されたため減額措置の対象にはならなかったが、"法律で十分に守られていないのでは"との不信感は拭えなかったという。

こうした犯罪被害者・遺族を経済的、精神的に、より手厚く支援しようというのが、明石市の改正・犯罪被害者等支援条例だ。

改正前の条例には、各自治体が定めている被害者への見舞金、貸付金のほか、先進的にホームヘルパー派遣費用の助成や家賃補助などが盛り込まれていた。

改正条例は、これまでの制度は残しつつ、臨床心理士らによる心理相談料や転居費の助成などを追加。さらに被害者の損害賠償請求権を譲り受ける代わりに、市が被害者・遺族に賠償額(上限300万円)を立て替え支給する画期的な制度を盛り込んだ。

制度設計に携わった能登啓元・同市市民相談室長によると、「新制度は全国初」といい、請求権を譲り受けた市は、被害者に代わって、加害者に対し賠償額を請求し続けることになるという。

今回、改正条例が成立、施行された背景には、声を上げ続けてきた犯罪被害者・遺族の存在があった。

1996年に、長男を通り魔に殺害された曾我部とし子さん(68)もその一人。被害者・遺族の置かれている現状を綴った「風通信」を98年から計20回発行。また改正に際しては、「明石市犯罪被害者等の支援に関する有識者意見交換会」の一員として、3回にわたり支援拡充へ意見を述べてきた。

一方、議会では、絹川市議が改正に向け奔走。一部の会派から反対意見もあったが、一般質問で、Aさんの事例を踏まえつつ、条例の改正による賠償金立て替え支給制度の創設を主張してきた。

「困っている人の側に立ち続けるのが公明党の使命」。そう語る絹川市議の顔は晴れやかだった。



先鞭つけた新制度を評価


犯罪被害者の遺族   曾我部 とし子さん


犯罪被害者・遺族に共通しているのは「まさか自分たちが」という思いだ。だから、いざ当事者になると、先行きが見通せず、どう行動を起こせばいいのか分からなくなってしまう。特に"命の代償"である賠償金の話などは、考えが及んだとしても言い出しにくいのが実情だ。

とはいえ、経済的に苦しい立場に追い込まれるのも事実で、今回、明石市が条例を改正し、全国で初めて市が賠償金を立て替えて支給する制度を創設したことは、大いに評価できる。

声を上げ続けてきた犯罪被害者の遺族の一人として、こうした支援制度が全国の自治体に広がることを願ってやまない。今回、先鞭をつけてくれた関係者には心から感謝している。

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